数学ゴールデンは、主人公の高校生が数学オリンピックの日本代表になることを目指すというストーリーの漫画です。以前に第1巻および第2巻に登場した問題を解きました。今回は、第3巻で登場しながら作中で解答が示唆されなかった4つの問題を解きます。
問:6桁の平方数の
上3桁として考えられるものは全部でいくつあるか.
(74ページより)
解答: 650個。
解説: \(316^2 = 99856\)、\(317^2 = 100489\)、\(1000^2 = 100000\)であることから、二乗して6桁になる最小の自然数は\(317\)、最大の自然数は\(999\)。\(500^2 - 499^2 = 999\)であることから、\(499^2 = 249001\)以下の平方数において、上3桁として"100"から"249"までの150個を網羅している。一方、\(501^2 - 500^2 = 1001\)であることから、500以上999以下の500個ある自然数を二乗するとそれらの上3桁は互いに異なる。したがって6桁の平方数の上3桁として考えられるものは全部で\(150 + 500 = 650\)個となる。
\(a + b = c + d + e = 29\)となる
相異なる正の整数の組\((a, b, c, d, e)\)はいくつあるか.
(144ページより)
解答: 7392個。
解説: まず(作中で主人公がしていたように)\(c + d + e = 29\)となる3つ組\((c, d, e)\)を数える。3つの整数\(\{c, d, e\}\)を昇順に並べたものを\((x, y, z)\)とおく。このとき\(y_0\)および\(z_0\)という正の整数によって\[(x, y, z) = (x, x + y_0, x + y_0 + z_0)\]と表せるので、\((x, y, z)\)を数える代わりに\(3 x + 2 y_0 < 29\)を満たす正の整数の対\((x, y_0)\)を数えればよい。そのような\((x, y_0)\)は以下の56個。\[(1, 1), \cdots, (1, 12), (2, 1), \cdots, (2, 11), (3, 1), \cdots, (3, 9), (4, 1), \cdots, (4, 8), (5, 1), \cdots, (5, 6), (6, 1), \cdots, (6, 5), (7, 1), \cdots, (7, 3), (8, 1), (8, 2)\]実際の\((c, d, e)\)は\((x, y, z)\)の順列分あるので、\(56 \times 6 = 336\)通りある。あとは\(a, b\)を選ぶのだが、各\((c, d, e)\)につき常に22通り選べることに注意する。例えば、\((c, d, e) = (7, 4, 18)\)の場合、\((a, b)\)を決めることは以下の図で示された青点線から1つを選ぶことに対応する。
したがって、求める\((a, b, c, d, e)\)は\(336 \times 22 = 7392\)個ある。
以下を計算せよ.
\[\frac{\sqrt{10 + \sqrt{1}} + \sqrt{10 + \sqrt{2}} + \cdots + \sqrt{10 + \sqrt{99}}}{\sqrt{10 - \sqrt{1}} + \sqrt{10 - \sqrt{2}} + \cdots + \sqrt{10 - \sqrt{99}}}\]ただし, 分母は\(\sqrt{10 - \sqrt{n}}\)において\(n\)が1以上99以下の整数値を動くときの和,
分子は\(\sqrt{10 + \sqrt{n}}\)において\(n\)が1以上99以下の整数値を動くときの和である.
(144ページより)
解答: \(1 + \sqrt{2}\) (白銀比)。
解説: \(a_n := \sqrt{10 + \sqrt{n}}\)、\(b_n := \sqrt{10 - \sqrt{n}}\)とおく。\(a := \sum_{n = 1}^{99} a_n\)、\(b := \sum_{n = 1}^{99} b_n\)と書くことにし、\(\frac{a}{b}\)を求める。作中にあったように、\begin{align}a_n^2 + b_n^2 &= 20 \\a_n b_n &= \sqrt{100 - n}\end{align}であるから\[(a_n + b_n)^2 = (a_n^2 + b_n^2) + 2 a_n b_n = 20 + 2 \sqrt{100 - n}\]となる。\(a_n + b_n > 0\)より\(a_n + b_n = \sqrt{2} \cdot \sqrt{10 + \sqrt{100 - n}}\)。また\(\sum_{n = 1}^{99} a_n = \sum_{n = 1}^{99} \sqrt{10 + \sqrt{100 - n}}\)より\[a + b = \sum_{n = 1}^{99} (a_n + b_n) = \sum_{n = 1}^{99} \sqrt{2} \cdot \sqrt{10 + \sqrt{100 - n}} = \sqrt{2} \cdot \sum_{n = 1}^{99} a_n = \sqrt{2} a\]よって\(b = (\sqrt{2} - 1) a\)、つまり\(\frac{a}{b} = \frac{1}{\sqrt{2} - 1} = 1 + \sqrt{2}\)。
自然数\(n\)を十進法で表したときの各桁の数の和を\(S(n)\)とおく. このとき,\[n_1 + S(n_1) = n_2 + S(n_2) = \cdots = n_{2002} + S(n_{2002})\]となる相異なる2002個の自然数\(n_1, n_2, \cdots, n_{2002}\)が存在することを示せ.
(144ページより)
解説: \(T(n) := n + S(n)\)とおく。自然数\(n_1\)、\(n_2\)について\(T(n_1) = T(n_2)\)のとき\(n_1\)と\(n_2\)は同値であると呼ぶことにする。与えられた自然数\(m\)について、\(V_m\)を\(T(n) = m\)となる自然数\(n\)全体の集合とする。題意は、\(V_m\)の元の個数(濃度)が2002以上となるような\(m\)が存在することを示せというものだが、実は\(V_m\)の濃度がいくらでも大きくなるように\(m\)を取ることができる。
このことを示すために、2つの補題を用意する。
補題1: 任意の非負整数\(k\)について\[T(\sum_{i = k + 1}^{10^k + k} 9 \cdot 10^i + 10^k) = T(10^{10^k + k + 1}) = 10^{10^k + k + 1} + 1\]
補題1の証明: 以下のように10進数表記にすると分かる。\[T(\underbrace{99\cdots9}_{10^k}1\underbrace{00\cdots0}_{k}) = T(1\underbrace{00\cdots0}_{10^k + k + 1}) = 1\underbrace{00\cdots0}_{10^k + k}1\]
補題2: \(n_1\)および\(n_2\)が10進数で\(k\)桁以内の自然数、\(N_1\)および\(N_2\)が10進数で下\(k\)桁が全て0の自然数とする。このとき\(T(n_1) = T(n_2)\)かつ\(T(N_1) = T(N_2)\)ならば\begin{align}T(n_1 + N_1) = T(n_2 + N_1) = T(n_1 + N_2) = T(n_2 + N_2)\end{align}であり、4つの\(n_i + N_j\)は相異なる。
補題2の証明: \(T(n_i + N_j) = T(n_i) + T(N_j)\)であることから分かる。
証明: 補題1から、\(V_{101} = \{91, 100\}\)という2つの3桁以内の同値な自然数がある。再び補題1から、下3桁が0であるような2つの相異なる同値な自然数が見つかる。補題2から、これらを足し合わせることで4つの相異なる同値な自然数が構成できる。以降、この構成を任意の\(x\)回繰り返して\(2^x\)個の相異なる同値な自然数が得られるため、いくらでも濃度の大きい\(V_m\)が存在する。