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人口減少問題を理解する上で出生率よりも気にするべき指標について (2023-02-23)

近年日本の人口が減少しており、喫緊の課題として少子化対策が求められていると一般に考えられています。しかし、人口増減の傾向を表す(粗)出生率を主な基準にして状況を判断することはあまり得策ではないかもしれません。その理由の1つとして、出生率は集団ごとに(例えば国ごとに)望ましい範囲が異なることが挙げられます。この記事では、出生率だけでなく人口の二階微分に出てくる係数を指標として注視することを提案します。

ここでは要点を明らかにするため話を単純にし、外部から人の流入・流出のない集団のモデルを考えます。まず説明に用いる記号を定義します。p(t)(>0)をある時点tにおけるその集団の人口とします。b(t)をある時点tの瞬間にその集団で出生が起こる時間平均を表すものとし、d(t)をある時点tの瞬間にその集団で死亡が起こる時間平均を表すものとします。p(t)=b(t)d(t)

これはp(t)=tb(s)dstd(s)ds=t(b(s)d(s))ds

と考えていることと同じです。つまりb()は各時点でどれだけ生まれるかの速度を表しています。一方、出生率rb(t)はその時点での人口に対する割合なので次の関係があります: rb(t)=b(t)p(t)同様に、死亡率はrd(t)=d(t)p(t)と定義できます。そして最初の等式はp(t)=(rb(t)rd(t))p(t)と書けます。このため例えば、rb(t)rd(t)が時刻tに依存しない定数なら、p(t)指数関数になります。あるいは、rb(t)rd(t)tについて線形な関数なら、p(t)ロジスティック関数になります[1]。

そのような仮定をおかない場合でも、上式の両辺を微分した後代入することでp(t)=(rb(t)rd(t))p(t)+(rb(t)rd(t))p(t)=(rb(t)rd(t))p(t)+(rb(t)rd(t))2p(t)=(rb(t)rd(t)+O(r(t)r(t)))p(t)が得られます。p(t)>0であることから、p(t)は条件rb(t)>rd(t)が成り立つなら正となります。つまり人口の加速度が正になる十分条件です。p(t)がある正定数で下から抑えられるなら、いずれp(t)も正に転じることが分かります。政策決定にはこのような長期的な観点が特に重要になるはずです。

なお、生態学の数理モデルで集団の個体数の二階微分に注目するべきという考え方は既に[2]で見られます。

[1] Donaldson, N. Math 3D (44248) - Winter 2021 Lecture Note: Population models. https://www.math.uci.edu/~ndonalds/math3d/popmodels.pdf

[2] Clark, J.P., 1971. The Second Derivative and Population Modeling. Ecology 52, 606–613. doi:10.2307/1934148


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